誰にも必要とされないと思っていた私に、「一緒にいてほしい」と言った人がいた。
離婚してから五年。
私はずっと一人で生きてきた。
友人たちは再婚を勧めてくれたけれど、その気にはなれなかった。
若い頃の私は、誰かに愛されることが当たり前だと思っていた。
しかし離婚を経験してからは違った。
自信を失った。
鏡を見るたびに年齢を感じた。
新しい恋愛なんて、自分にはもう関係ないと思っていた。
だから仕事と家の往復だけの毎日を過ごしていた。
それでも特に不満はなかった。
寂しさには慣れていたから。
・・・
ある冬の日。
仕事帰りに立ち寄ったスーパーで、重い荷物を抱えていた私は階段で足を滑らせそうになった。
その瞬間だった。
後ろから誰かが支えてくれた。
「大丈夫ですか?」
振り返ると、一人の男性が立っていた。
優しそうな目をした人だった。
「ありがとうございます。」
そう言って頭を下げると、彼は笑顔で言った。
「気をつけてくださいね。」
それだけだった。
普通なら、そのまま終わる出会いだった。
・・・
ところが、それから何度も彼と会うようになった。
近所のパン屋。
駅前のカフェ。
散歩中の公園。
偶然とは思えないほどだった。
彼の名前は直樹。
私より二歳年上だった。
話していると、不思議と心が落ち着いた。
彼は私の過去を無理に聞こうとしなかった。
離婚の理由も聞かなかった。
ただ私の話を静かに聞いてくれた。
そしていつも笑っていた。
その笑顔を見るたびに、凍っていた心が少しずつ溶けていく気がした。
・・・
春になった頃。
私たちはすっかり親しくなっていた。
ある日、公園のベンチで桜を眺めていると、彼が突然真剣な表情になった。
「少し話したいことがあります。」
私は黙って頷いた。
彼は深呼吸をした。
そして静かに言った。
「最初に会った日から、あなたのことが気になっていました。」
心臓が大きく鳴った。
私は何も言えなかった。
彼は続けた。
「あなたはいつも笑っています。」
「でも、その笑顔の奥に寂しさがあることも分かっていました。」
涙がこぼれそうになった。
そんなふうに見てくれる人がいるなんて思わなかった。
・・・
しばらく沈黙が続いた。
そして彼は私の目を見て言った。
「もし迷惑でなければ……」
「これから先、一緒にいてほしい。」
その言葉を聞いた瞬間、涙があふれた。
離婚してからずっと思っていた。
私はもう誰にも必要とされない。
もう誰かに選ばれることはない。
でも違った。
人生は終わっていなかった。
誰かが私を見ていてくれた。
誰かが私を必要としてくれた。
誰かが私と未来を歩きたいと思ってくれた。
私は涙を拭きながら笑った。
そして小さく頷いた。
「私でよければ……。」
満開の桜が風に舞った。
その瞬間、長い冬が終わったような気がした。
誰にも必要とされないと思っていた私に、
「一緒にいてほしい」
そう言ってくれる人が現れた。
そして私は、もう一度幸せになる勇気を見つけた。
🌸 完 🌸