一人で生きていくつもりだった。でも、彼の優しさが私の心を変えた。
離婚してから四年。
私はもう誰かに頼らず、一人で生きていこうと決めていた。
最初は寂しかった。
家に帰っても誰もいない。
嬉しいことがあっても、それを話す相手がいない。
辛い日があっても、一人で乗り越えるしかなかった。
けれど、人は慣れるものだ。
気がつけば、一人の生活が当たり前になっていた。
休日は好きなカフェで本を読む。
季節の花を飾る。
自分のためだけに料理を作る。
そんな静かな毎日が、私は嫌いではなかった。
だからもう恋なんて必要ないと思っていた。
誰かを好きになれば、また失うかもしれない。
また傷つくかもしれない。
そんな思いをするくらいなら、このままでいいと思っていた。
・・・
彼と出会ったのは、雨の日だった。
仕事帰りの駅前。
突然の雨に困っていた私に、一人の男性が傘を差し出した。
「よかったら、一緒に入りませんか?」
知らない人だった。
それなのに、その笑顔は不思議なくらい安心感があった。
私たちは駅までの短い道を一緒に歩いた。
たった数分だったのに、なぜか心に残った。
それが彼との始まりだった。
・・・
それから何度か偶然が重なった。
近所のスーパー。
カフェ。
公園。
会うたびに少しずつ会話が増えていった。
彼はいつも自然だった。
無理に距離を縮めようとしない。
私の過去を聞き出そうともしない。
ただ、困っているときには必ず手を差し伸べてくれた。
ある日、仕事で大きな失敗をして落ち込んでいた私に、彼はこう言った。
「頑張りすぎなくてもいいんですよ。」
「たまには誰かに頼ってもいいんです。」
その言葉を聞いた瞬間、なぜか涙がこぼれた。
ずっと強くならなければいけないと思っていた。
一人で生きていかなければいけないと思っていた。
でも、本当は違った。
私はただ、誰かの優しさに触れることを怖がっていただけだった。
・・・
春の夕暮れ。
桜が舞う公園で、彼は静かに言った。
「これからも、あなたのそばにいてもいいですか?」
私はしばらく何も言えなかった。
でも、心はもう答えを知っていた。
一人で生きていくつもりだった。
恋なんてもうしないと思っていた。
それなのに――
彼の優しさは、少しずつ凍っていた私の心を溶かしていった。
私は微笑みながら頷いた。
そしてその瞬間、新しい人生が静かに始まった。
🌷 完 🌷