50歳になった私に、まさかもう一度恋が訪れるなんて思わなかった。

50歳になった私に、まさかもう一度恋が訪れるなんて思わなかった。

五十歳の誕生日を迎えた日。

私は一人で小さなケーキを買い、自宅のダイニングテーブルで静かにお祝いをしていた。

若い頃は、五十歳という年齢はずっと遠い未来の話だと思っていた。

けれど気がつけば、その未来の中に私は立っていた。

離婚して六年。

子どもたちも独立し、今は一人暮らし。

毎日は穏やかだった。

仕事をして、友人と会い、休日には好きな場所へ出かける。

不満はなかった。

だから私は思っていた。

「恋愛はもう私には関係ない」

と。

・・・

そんなある日。

私は近所の図書館で一冊の本を探していた。

高い棚にある本に手を伸ばした瞬間だった。

「あ、危ない。」

後ろから伸びてきた手が、本と一緒に私を支えてくれた。

驚いて振り返ると、一人の男性が立っていた。

優しそうな目。

落ち着いた笑顔。

同じくらいの年齢だろうか。

「大丈夫ですか?」

その一言に、なぜか胸が少しだけ温かくなった。

・・・

それから何度も顔を合わせるようになった。

図書館。

カフェ。

公園。

偶然とは思えないほど、よく出会った。

彼の名前は健一。

妻を病気で亡くして三年になるという。

私たちは少しずつ、お互いのことを話すようになった。

若い頃の夢。

家族のこと。

失敗したこと。

後悔していること。

そして、これからの人生について。

不思議だった。

一緒にいると自然に笑えた。

無理をしなくていい。

飾らなくていい。

ありのままの自分でいられた。

・・・

ある夕方。

夕焼けに染まる川沿いの道を歩いていると、彼が立ち止まった。

そして少し照れたように笑った。

「こんなことを言う年齢じゃないかもしれませんが……」

私は黙って彼を見つめた。

彼は深呼吸をして続けた。

「これから先の人生を、一緒に歩いていきませんか。」

風が静かに吹いた。

若い頃のような激しい恋ではなかった。

胸が苦しくなるような恋でもなかった。

けれど、それ以上に温かかった。

人生の喜びも悲しみも知った二人だからこそ分かり合える気持ちがあった。

気づけば私は涙を流していた。

そして笑いながら答えた。

「はい。」

・・・

五十歳になった私に、まさかもう一度恋が訪れるなんて思わなかった。

人生は終わるまで何が起こるか分からない。

だからこそ面白いのかもしれない。

あの日、諦めなくてよかった。

もう恋なんて無理だと思わなくてよかった。

幸せは年齢を選ばない。

それを教えてくれたのは、人生の後半で出会った彼だった。

🌷 完 🌷

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